「好き」は探すものじゃなく、育てるもの

音楽を続けられる人と、途中で消える人の違いは何か。才能でもセンスでもない。「好きを探す努力」をしているかどうかだ。最初の「好き」にしがみつくだけでは、だいたい続かない。やればやるほど好きになる人が、10年20年とキャリアを重ねていく。これは体感だ。

最初の「好き」だけにしがみつくと、続かない

DTMを始めた頃は楽しい。音が鳴る。曲が出来る。これが「好き」の入口だ。

でもすぐに壁が来る。

  • 思った音が出ない
  • ミックスで音が団子になる
  • プラグインの使い方が分からない
  • 完成まで持っていけない

ここで多くの人が止まる。「好き」という燃料が切れるからだ。

最初の「好き」は、だいたい浅い。憧れで始めた人ほどそうなる。好きなバンドのコピーがしたい。ゲーム音楽みたいな曲を作りたい。動機としては正しい。でもそれだけだと、覚えることの多さに押し潰される。

続く人は、最初の「好き」の隣にある別の「好き」を見つけている。そこが分岐点だ。

DTMを覚えると、好きなジャンルが勝手に増える

Logic Proを使い始めた頃、僕はロックバンドサウンドばかり作っていた。ギター、ベース、ドラム、時々ピアノ。それで完結していた。

でもDTMを覚えていくと、使える音色が膨大に増える。シンセ、オーケストラ音源、民族楽器。触れるジャンルが勝手に広がる。

ある時期、シンセを触っていて気づいた。「この音、なんかレトロなジャンルの曲で使われてるやつだ」と。そこからシンセウェイブを聞くようになった。楽器を触る→そのジャンルに興味が湧く→聞くようになる→好きになる。この順番だ。

逆じゃない。「好きだから触る」んじゃなく「触ってるうちに好きになる」。

オーケストラ音源もそうだった。最初はゲーム仕事で必要だから触った。でも弦のセクションを組んでいるうちに、シネマティックの構造自体が好きになった。今では得意ジャンルの一つだ。

ミックスが楽しくなったのは、技術が一段上がった瞬間だった

正直言うと、ミックスは最初ずっと大変な工程だった。

プラグインの使い方調べて、バランス取って、音圧上げて。それで精一杯。「ミックスは苦行」っていうイメージだった。

転機は、ボーカルトリートメントを覚えた時だ。

それまではEQとコンプでなんとなくボーカルを前に出していた。でも録音データのノイズや歌唱時のリップノイズを丁寧に処理して、AutoTuneでピッチを整えて、サチュレーションと空間系を作り込んで。そこまでやると曲全体のクオリティが一気に化ける

これが分かった瞬間、ミックスが楽しくなった。

「音圧を上げる作業」から「曲を完成させる工程」に変わった。録音のノウハウも調べるようになった。マイキング、部屋鳴り、プリアンプ。全部繋がっている。

これも「好きを探す努力」の結果だ。最初からミックスが好きだったわけじゃない。一段階上の技術を覚えた瞬間、世界の見え方が変わって、好きになった

「好きを探す努力」とは何か

受け身で「好き」を待つ人は、続かない。

好きを探す努力とは、具体的にこういうことだ。

  • 新しい楽器・プラグインを意図的に触る
  • いつもと違うジャンルの曲を分析してみる
  • 苦手な工程(ミックス、マスタリング、録音)を一段深く学ぶ
  • 自分の作った曲を客観的に聞き返す

これをやっていると、「あ、これ面白いな」という瞬間が不意に訪れる

シンセを触っていてシンセウェイブにハマる。ボーカル処理を覚えて録音が好きになる。オーケストラ音源を触って劇伴に惹かれる。全部、技術が先で、好きは後からついてくる。

「好き」はスキルに近い。後天的に獲得できる

続けられる人は、好きになる仕組みを持っている

15年ゲーム音楽を作ってきて、周りを見てきた。続いている人に共通するのは、才能ではなく「好きの拡張性」だ。

最初に好きだったジャンルを、そのままずっと作り続けている人は少ない。みんな途中で広げている。

  • ロック出身なのにオーケストラが得意になった人
  • EDMから劇伴に移った人
  • 効果音の沼にハマって専門になった人

最初の「好き」を軸にしつつ、周辺に新しい「好き」を増やしていく。これが続く人の共通点だ。

体感では、3〜5年ごとに新しい「好き」が増えていくと、燃料は切れない。僕自身もそうだった。バンド→ゲーム音楽→シネマティック→シンセ系→ミックス工程そのもの。好きの層が積み重なっている。

一つの「好き」でも、もしかしたら一生走れるかもしれない。僕は違うと思うけど。でも、育てていけば、好きは無限に増える。

まとめ

  1. 最初の「好き」だけにしがみつくと、燃料が切れて止まる
  2. 楽器や工程を触っているうちに、新しい「好き」が生まれる
  3. 「好き」は才能じゃなく、後天的に獲得できるスキルに近い
  4. 続けられる人は、定期的に「好き」を更新している

詰まったら、新しい何かを一つ触ってみるといい。そこから次の「好き」が見つかるかもしれない。