ゲーム音楽の「ループ」は制約だ。同時に、発明でもある。容量問題の中で素材を最大限使うために編み出された、ゲーム音楽特有の構造。生演奏や映画やCDの音楽にはない独自の作法だ。15年作ってきて、ループは作家を悩ませると同時に、救いもしてくれていると思う。
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ループBGMは、ゲーム音楽が編み出した独自の発明
ループBGMは、もともとゲームの容量問題から生まれた。
限られた容量の中で、プレイヤーが長時間遊ぶシーンに音楽を鳴らし続ける。そのために、短い楽曲を自然に繰り返す技術が必要になった。
これは、他の媒体には存在しない構造だ。
- 生演奏は曲が終われば終わる
- 映画音楽はシーンと共に消える
- CDアルバムは順番に流れて完結する
ループBGMだけが、同じ曲を何度も自然に繰り返すことを前提に設計される。制約から生まれた、独特な発明だ。
この前提を理解すると、ループBGM制作は普通の作曲とは別の競技として向き合うことになる。
ループポイントで音が一瞬途切れる、という落とし穴
ループポイントの設計は、ゲーム音楽制作を始めた頃から、今でも気を遣うポイントだ。
アレンジや構成によっては、曲の最初に戻る瞬間に違和感が出ることがある。リバーブの残響、フェードの処理、メロディの繋ぎ。この詰めが甘いと、ループのたびに小さな引っかかりが生まれる。
そして厄介なのが、組み込み側の仕様だ。
こちらの再生環境ではキレイにループしているのに、ゲームに組み込んだらループの瞬間に一瞬間が空く、というケースがある。プレイヤーには「あれ?」と違和感を与えてしまう。これは作家側だけでは解決しきれない問題だ。
だから僕は、「組み込んでチェック」を最重要項目の一つにしている。想定通りのループになっているか、実際のゲーム環境で必ず確認する。
他のサウンドクリエイターは、ここまで踏み込めない環境にいる人もいるかもしれない。僕は幸い、組み込みまで確認できる環境にいた。これはゲーム音楽作家として大きな経験になっている。
1分30秒のループが、プレイヤーを退屈させる時
もう一つ、ループBGMで気をつけているポイントがある。
例えばディレクターから「1分30秒のフィールドBGMループで」と指示があって、楽曲を作ったとする。
そのBGMが実際にゲームに組み込まれた箇所をプレイしてみる。すると、シーン切り替えのきっかけがなくて、延々と同じ曲がループし続ける場面が出てくる。
プレイヤーは、同じフレーズを短い間隔で何度も聴くことになる。
結果として、退屈なプレイフィールになりかねない。
このケースでは、楽曲側で対処できる。
- 楽曲のサイズを長くする
- 構成に緩急をつける
- メロディラインの1単位を変える
「このフレーズさっきも聴いたなぁ…」という感覚にならないように、緩急のある展開を作る。
サイズを変えられない制約がある場合は、逆に意識に上らないアンビエント寄りのアプローチにする選択肢もある。
こういうアプローチの選択は、制約であると同時に、工夫やクリエイティビティを発揮できる場所だと思っている。
ループBGMにエンディングは入れづらい、という美学
これは個人的なこだわりの話。
市販されるアーティストの楽曲とは違って、ループBGMにはエンディングを入れづらい。
流しきって曲の最初に戻るループも、敢えて入れるという判断はできなくはない。でも、ループBGMはループするからこその構成で楽曲が活きるようにしたい、という思いがある。
これはエゴだと思う。仕方ない。その方がカッコいいんだから。
楽曲の最後のフレーズが、冒頭のフレーズに繋がることで意味をなす。そういうドラムのフィルインの組み立てや、メロディフレーズの作り込みができる楽しさがある。
ループBGMは、終わらないからこそ生まれる音楽的な仕掛けがある。終わらない前提で構成を考えると、普通の楽曲では使わないアイデアが出てくる。これがループBGM制作の楽しさだ。
AABCやABCDで、飽きさせない構成を作る
構成の話をもう少し具体的に。
AABAのような一般的な構成をループBGMでやると、ループした時にAが3回繰り返されることになる。
「A→A→B→A→(ループ)→A→A→B→A」
これだとAの密度が高すぎて、すぐに飽きが来る。
だから僕は、ループBGMの構成ではAABCやABCDのような形を意識する。
- AABC:Aを2回まで抑え、BとCで変化をつける
- ABCD:4つのパートで進行し、ループで初めて全体が見える
短い時間の中で飽きがこないように、構成のレイヤーを増やす。
これも普通の楽曲制作とは少し違う発想だ。「繰り返される前提」を構成設計に組み込む。ループBGMの作家としての筋肉は、こういう判断の積み重ねで鍛えられる。
ループは、悩ませると同時に救いもする
ループBGM制作は、確かに制約だらけだ。
- ループポイントの違和感に悩む
- 長時間繰り返される退屈さに悩む
- エンディングを使えない構成に悩む
でも同時に、ループは作家を救う場面もある。
短い楽曲でもプレイヤーに長く聴いてもらえる。冒頭と終端を繋ぐ構成の楽しさが生まれる。アンビエントに振るという第二の選択肢が用意されている。終わらない音楽だからこその仕掛けが作れる。
そして何より、これは他ジャンルにはない独特な発明だ。
ゲーム音楽の制約は、他ジャンルにはない独特な発明として理解できる。そう捉えると、ループは作家としての引き出しを増やしてくれる、意外と面白い土俵になる。
まとめ
- ループBGMは、容量問題から生まれた、他媒体にはない独自の発明
- ループポイントは作家側の処理+組み込み側のチェック、両方が必要
- 長時間ループの退屈は、サイズ・構成・アンビエント化で対処できる
- エンディングを使わずに楽曲を活かす構成設計が、ループBGMならではの楽しさ
- AABCやABCDで、繰り返される前提を構成に組み込む
制約として向き合うか、発明として楽しむか。ゲーム音楽作家の腕の見せどころだと思っている。











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