ゲーム音楽の制作環境は、バックパックに収まる範囲まで小さくできる。実際、僕は数年間そうしていた。トルコでも、東北の旅先でも、同じバックパック一つで仕事を進めていた。機材を絞ると、判断と着手が速くなる。15年やってきて、これは制作術の一つだと思っている。
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バックパックに収まる範囲で、ゲーム音楽は作れる
制作環境はミニマルにできる。これは経験から確信に近づいてきた。
機材沼にハマっている人ほど、たぶん信じづらい話だと思う。でも、ゲーム会社の楽曲制作も、効果音制作も、コミッションワークも、バックパックひとつ分の機材で実際にこなしてきた。
機材を絞ると、何が変わるか。
- 判断が早くなる
- 着手が早くなる
- 場所を選ばなくなる
制約は不自由じゃなく、集中の補助線になる。
トルコで3ヶ月、バックパック一つで仕事をした
一番思い出深いのは、トルコに3ヶ月ほど滞在していた頃。
このセットアップで海外でも仕事ができた。通りを歩くだけで日本とは全然違う環境音が聞こえてきて、それが嬉しくてハンディレコーダーで録音してカフェで編集する、みたいなことをよくやっていた。
ホテルの部屋で作曲を進めて、疲れたら外に散歩に出かける。気分転換と素材集めが地続きになる。
旅と制作が一つの行為になっていた。これは自宅作業では得られない感覚だった。
東北を旅しながら、両親も訪ねていた
もう少し身近な話。
1週間から10日くらい、東北を旅しながら両親を訪ねる、ということを数年続けていた時期がある。
両親から「そろそろ来るか?」と連絡が来ると、機材と着替えをバックパックに詰めて、高速バスや電車に乗って向かう。旅は待ち時間が多い。ぼんやり過ごすのもいいけど、macを開いてすぐに仕事を始めると、刺激的な制作環境に切り替わる。
疲れたら、見知らぬ地で気分転換もすぐできる。
作業場所は、その時々で変わった。
- 駅の待合室
- 歩き回って見つけたカフェ
- 誰もいない城跡の公園
曲のスケッチや初期のアレンジは、macにイヤホンを挿して作業する。すぐに始められて、すぐに立ち去れる。これが旅先では効いた。
バックパックに入れていたもの
当時のセットアップはこれだけ。
- MacBook Pro
- 小型オーディオインターフェース(ハンディレコーダー兼用)
- ヘッドホン
- 電源アダプター
- PCスタンド
オーディオインターフェースはハンディレコーダーとしても使えるタイプを選んでいた。これがフィールドレコーディングにも使える。旅をしながらいろんな場所に行って、環境音の素材を集められる。一台二役で荷物が減る。
これだけで、楽しい旅の制作環境になった。
このセットでこなせた仕事と、できなかった仕事
正直に書いておきたい。
このセットでゲーム会社の楽曲制作、効果音制作、コミッションワーク、ほぼ全て進められた。ただし、納品物のクオリティに差が全くなかったとは言えない。
制約は確かにあった。
- MIDIキーボードなし=MIDIを手打ちする必要がある=フレーズの試行錯誤の回数が減る。実際に弾いて試せないからね。
- ヘッドホンミックスが基本=キャリブレーターが必須。スピーカーが使えない制約はある
Sonarworks SoundID Reference for Headphones
とはいえ、ヘッドホンの特性を補正すればカバーできる範囲だと思っている。スピーカーチェックができない不利は、自宅に戻ったタイミングで補えばいい。
唯一、応えられなかった依頼を覚えている。「生ギター録音を入れてほしい」という要望。これだけは、バックパックセットだけでは無理だった。さすがにギターを担いで飛行機には乗れない。
機動性を優先するために捨てたもの、譲れなかったもの
セットを組む時、何度も天秤にかけた判断がいくつかある。
まずMIDIキーボード。あれば制作スピードが上がるのは分かっていた。でも、機動性を優先して持たないことにした。
次にマウスやトラックボール。作業に入る初手のスピードが下がるし、荷物も増える。だからmacだけで完結するように、自分を慣れさせた。
その流れで、自宅スタジオでの作業もMagic Trackpadに統一している。出先と自宅で作業の切り替えに違和感がない。これは旅で得た習慣の中でも、特に効いている一つだ。
逆に、「これだけは譲れない」と思ったのはPCスタンド。
空港のベンチなら座って膝の上に置いて作業できる。でもカフェやホテルの机だと、直置きには色々リスクがある。
- 水をこぼされる
- テーブルが埃っぽい
- 姿勢が悪くなって長時間作業に向かない
機材としては地味だけど、PCスタンドはバックパック制作環境の縁の下を支える存在だった。
最初のアクションが滞らなければ、進捗は必ず生まれる
旅をしながら仕事をしていた数年間で、一番大きく学んだことがこれだ。
「macを開いたらすぐに作業開始」という最初のアクションが滞らなければ、どんな環境でも少しは必ず進捗が生まれる。
カフェだろうが、ホテルだろうが、駅の待合室だろうが、関係ない。
逆に言うと、立ち上がりに摩擦があると、人はすぐに作業を諦める。「ちょっとしたセッティング」が積み重なるだけで、進捗はゼロになる。
この気づきは、今の自宅スタジオの環境にも引き継いでいる。今後も外に飛び出たらすぐ作業開始できるセットアップは、維持・改善していくつもりだ。
機材を増やすことが上達に繋がるとは限らない。むしろ、絞ることで見えてくる作家としての筋肉もある。
まとめ
- ゲーム音楽の制作は、バックパックに収まる機材で十分こなせる
- MacBook、オーディオインターフェース、ヘッドホン、電源アダプター、PCスタンド。これだけで海外でも仕事ができた
- 機動性を優先する代わりに諦めるものを決める。逆に、譲れない一品は明確にする
- 出先と自宅でツールを揃えると、作業の切り替えに違和感がなくなる
- 「macを開いたらすぐに作業開始」が崩れなければ、進捗は必ず生まれる
機材沼の前に、一度バックパック一つに絞ってみるのも面白い。何が本当に必要かが見えてくる。











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