曲が完成しない。
DTMをやっている人の大半が、一度はぶつかる壁だ。アイデアはある。DAWも開く。でも気づいたら音色探しで2時間が消え、コード進行をいじり続けて結局保存して終わり。そのプロジェクトファイルは二度と開かれない。
これはスキルの問題じゃない。「完成させる」こと自体がひとつのスキルであって、意識して鍛えないと身につかない。ゲーム音楽制作15年、仕事でも副業でも曲を作り続けてきた僕が、曲が完成しない本当の原因と、実際に効いた対処法を話す。
「曲が完成しない」「DTM 挫折」で悩んでいる人に読んでほしい。
この記事の目次(クリックでジャンプ)
曲が完成しないのはスキル不足のせいじゃない
まず最初に言っておく。曲が完成しない理由を「自分の実力が足りないから」と思っている人は多い。でもそれは違う。
完成しない原因は大きく2種類に分かれる。
- 構造的な原因:ゴールが決まっていない、制作工程に罠がある
- 心理的な原因:完璧主義、比較癖、完成を恐れている
どちらも「スキルが低いから」ではない。むしろ耳が肥えてきた中級者ほど、心理的な原因にはまりやすい。自分の出す音と理想の音のギャップが見えすぎて、前に進めなくなる。
僕が一番やらかしたのは、「流行ってる曲みたいなのを作ろう」とサウンドや構造を分析して真似しようとしていた時期だ。
リファレンス曲を決めて、楽器編成を拾って、コード進行を解析して……という作業はそれなりに手間がかかる。でも進めるほど「あれ、これ僕が作りたい曲じゃないな」という感覚が大きくなっていく。そのうち「そもそもこの曲に似せたところで、本当に売れるのか?」という疑問が頭の中で育ちはじめて、手が止まる。
逆に、自分が作りたい曲を作っているときはそういう疑問が出てこない。「売れるかどうかわからないけど、でも僕はこの曲が好きだし。」それだけで先に進める。完成しない原因の一つは、「作りたい曲」と「作るべきと思っている曲」がズレているときにある。
完成しない人がはまりやすい「3つの罠」
構造的な原因を具体的に見ていく。完成できない人が共通してはまっているパターンが3つある。
罠① ゴールが決まっていない
「なんとなく良い曲を作りたい」という状態で始めると、どこで終わればいいかわからなくなる。
完成の定義がないから、完成できない。当たり前だけど、これが一番多い。
仕事の依頼だと「3分・ループあり・WAV納品・〇日まで」と条件が決まっているから完成する。個人制作で完成しないのは、この条件を自分で決めていないからだ。
罠② 音色・プリセット探しで時間を溶かす
制作の入口で音色を探し始めると止まらなくなる。
「もっと良い音があるはず」という感覚は正しい場合もある。でも音色探しは制作じゃない。ほとんどの場合、音色が変わっても曲の骨格は変わらない。
音色探しに30分かけた結果、最初に選んだプリセットに戻った経験は一度や二度じゃないはずだ。
罠③ ミックスを早くやりすぎる
作曲段階でEQをかけたりコンプを触り始めると、完成が遠ざかる。
ミックスは「曲が形になってから」やる工程だ。曲の骨格が決まっていない状態でミックスをいじっても、骨格を変えるたびにやり直しになる。沼る原因のひとつだ。
完璧主義が完成を遠ざけている
心理的な原因の話をする。
完璧主義は悪いことじゃない。クオリティへのこだわりがあるから音楽を続けられる。でも完璧主義が「公開」や「完成」の前に立ちはだかるようになると問題だ。
症状はこういう形で出る。
- 「もう少し良くなるはず」と思って手が止まらない
- 他の人の曲と聴き比べてテンションが下がる
- 完成させても「これで本当にいいのか」と不安になって公開できない
これは耳が育っている証拠でもあるんだけど、完成させるためには「完璧じゃなくていい、完成させることに意味がある」という切り替えが必要になる。
僕が意識するようにしたのは、「今の自分が出せるベストを、今日中に出す」という考え方だ。1ヶ月かけた未完成より、3日で完成した曲の方が価値がある。完成した曲は次の制作の土台になる。未完成のファイルは何も生まない。
完成させるための具体的な5つの方法
原因がわかったところで、実際に効いた方法を紹介する。
① 最初にゴールを決める
制作を始める前に以下を決める。
- 尺:何分何秒か
- 構成:イントロ・Aメロ・サビなど大まかな流れ
- 締め切り:いつまでに完成させるか
この3つを決めるだけで、「どこで終わるか」が見えてくる。完成の定義が決まれば完成できる。
② 音色探しは15分で打ち切る
タイマーを使う。15分で決まらなかったら今あるもので進める。
音色は後から変えられる。曲の骨格が決まってからでも遅くない。「7割合っていればOK」で次に進む。これは仕事でも個人制作でも同じルールにしている。
③ ミックスは骨格が完成してから
作曲→アレンジ→ミックス→マスタリング、の順番を崩さない。
骨格が決まっていない段階でミックスに触れない。Logic Proだとチャンネルストリップをまとめてバイパスしておくと触りたくなる誘惑が減る。
④ 「制約」を使う
使える音源を3つに絞る。BPMを最初に決めて変えない。尺を2分以内にする。
制約があると選択肢が減り、決断が速くなる。完成しない人ほど選択肢が多すぎる状態にある。制約は創作の敵じゃなくて、完成の味方だ。
尺の制約は特に効く。「1分前後の曲を作る」と決めるだけで、最初の心理的ハードルがかなり下がる。なんか気が楽になる。
不思議なのは、作り始めると今度は「あれ、1分前後に収めるの結構難しいかも」という感覚が出てくることだ。そこからチャレンジ感覚が生まれて、気分がノってくる。制約が逆にエンジンになる。
⑤ 完成した曲をカウントする
完成した曲の数を記録する。メモでもスプレッドシートでも何でもいい。
完成させるたびにカウントが増える。このカウントが増えること自体がモチベーションになる。「完成させた回数」を積み上げると、完成させることへの心理的ハードルが下がってくる。
僕がAudiostockに200曲配信できているのも、この考え方の延長線上にある。1曲1曲は小さくても、完成させることをやめなかった結果だ。
「完成させること」自体がスキルだと気づいてから変わった
正直に言う。僕も完成できない時期があった。
技術的には作れるはずなのに、なぜか最後まで辿り着けない。完成しないファイルが増えていく。「自分には才能がないのかも」と思ったこともある。
でも気づいたのは、「完成させること」は「曲を作ること」とは別のスキルだということだ。
完成させるスキルは、完成させる回数を増やすことでしか身につかない。最初は短くていい。クオリティが低くていい。とにかく完成させる、を繰り返すことでそのスキルが育つ。
完成した曲は、次の制作の土台になる。未完成のファイルは何も生まない。この事実に気づいてから、制作に対する向き合い方が変わった。
意識が変わったのは、ゲーム音楽制作を本格的に始めてからだ。
ゲームの曲には「この場面で必要」というゴールが最初から決まっている。フィールド曲、ボス曲、エンディング。用途が決まっているから、完成の定義も自然と決まる。
それよりも大きかったのは、完成させた曲を実際にゲームに組み込んで、動いている画面の中で流したときの体験だ。「あ、ここのテンポ違和感あるな」「もう少し静かでもいいかも」——ゲームの中で音楽が鳴っている状態を見て初めてわかることがある。完成させてゲームに入れて、チェックして、ブラッシュアップする。この流れが気持ちいいし、何より曲が良くなる。だから「まず形にする」が最優先になった。
完成させることへのハードルが下がったのは、この「完成→組み込み→チェック→ブラッシュアップ」のサイクルを繰り返した経験が大きい。最初から完璧にしようとするより、動いているゲームの中で結果を見た方が早いし、楽しい。
まとめ
曲が完成しない悩みをまとめる。
- 完成しない原因はスキル不足ではなく、「ゴールが決まっていない」「音色探しで時間を溶かす」「完璧主義」のどれかにある
- 制作前にゴール(尺・構成・締め切り)を決めるだけで完成率が上がる
- 音色探しは15分で打ち切り、ミックスは骨格完成後に触る
- 制約を使うと選択肢が減り、完成が速くなる
- 「完成させること」自体がスキル。回数を積むことでしか身につかない
全部を一度に変えようとしなくていい。まず次の1曲で、最初にゴールを決めることだけやってみてほしい。それだけで完成に近づく。





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