副業でDTMを始めたばかりの頃、僕は「1曲5,000円」という相場の中で必死に泳いでいた。数を作れば経験値は溜まるが、口座の残高と自分の消耗具合を天秤にかけると、いつか燃え尽きる未来しか見えなかった。
「もっとクオリティを上げれば、単価は上がるはずだ」
そう信じてKompleteを導入し、8TBのHDDを積み、音の「1ミリ」にこだわった。だが、現実は残酷だ。音を良くしただけでは、クライアントから提示される金額は1円も変わらなかったんだ。
僕がその絶望から脱出したきっかけは、音色を磨くことではなく、「提案」を始めたことだった。
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1. クライアントが欲しいのは「曲」ではなく「解決策」だ
多くの依頼者は、音楽の専門家ではない。彼らが「おまかせで」と言う時、その裏には「自分の動画やゲームをどう面白くすればいいか分からない」という不安が隠れている。
以前の僕は、ただ言われた通りの長さで、言われた通りのジャンルの曲を納品していた。まさに「5,000円分の作業」だ。だが、ある時から僕はこう聞き返すようにした。
「このシーンで一番伝えたい感情は何ですか? もし後半の盛り上げを重視するなら、あえて前半をピアノ一本にする構成はどうでしょう?」
音を作る前に、相手の「目的」に踏み込む。こちらから選択肢を提示する。この「提案」という名のコミュニケーションこそが、作業員を卒業し、パートナーとして認められるための第一歩だった。
2. 「プラスα」の価値を言語化する
単価を上げるためには、相手に「この人に頼むと、自分の想像以上の結果が返ってくる」と思わせなければならない。僕が実践したのは、以下の3つの小さな提案だ。
- ループ処理の最適化: 「ゲーム実装時にノイズが出ないよう、完璧なシームレスループを組んでおきました」
- バリエーションの提示: 「メロディあり版と、ナレーションを邪魔しないオフボーカル版の2パターン用意しました」
- 音響の整合性: 「他のSEとぶつからないよう、特定の帯域をあらかじめ削ってあります」
これらは、DTMerにとっては数分の作業かもしれない。だが、多忙な依頼者にとっては「痒い所に手が届くプロの仕事」に見える。この「1ミリの気配り」を言葉にして伝えることで、価格交渉の主導権はこちら側に移る。
3. 「断る勇気」が自分のブランドを作る
根性論を愛する僕にとって、仕事を断るのは勇気がいった。でも、「誰でもいいから安く作ってほしい」という案件を拾い続けている限り、単価が上がることはない。
「僕の提案とクオリティを必要としてくれる人に、最高の1曲を届ける」
そう決めて、自分の基準(80点の資産を積み上げる戦略)に合わない仕事を手放した。すると不思議なことに、空いたスペースに、僕の提案を面白がってくれる高単価の案件が舞い込むようになったんだ。8TBのHDDを埋めるべきは、安売りのデータではなく、価値ある「作品」であるべきだ。
結びに代えて:君は「作業員」で終わるつもりか?
もし君が、今の単価にモヤモヤしているなら、次はマウスを動かす前に、一度手を止めてチャット欄に「提案」を打ち込んでみてほしい。
音楽の知識は、音を作るためだけにあるんじゃない。クライアントをガイドするためにあるんだ。
さあ、今日の「1ターン」は、新しい自分への投資になるような提案から始めてみないか?









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